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第一章 第一話 始まりの詠唱

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太陽の都ソルメリア

ユグドラシルから最も近いふもとの都。太陽の光がきらめく港町──ソルメリア王国・王都ソルメリア。
黄金色の石畳は朝日を受けて輝き、街の中心にそびえる巨大な白亜の大聖堂は、まるで光を呼び寄せる塔のようだった。

そのすぐ近くに、木々の緑に囲まれた学院がある。
王立ソルメリア教会魔法学院。
ソルメリア大聖堂と王立図書館が運営する、由緒正しい魔法学校だ。
そんな輝かしい場所に向かって、ひとりの少女が駆けていた。

アストレイア・ソル・リュミエール

赤い髪を高い位置でまとめ、魔法糸のシュシュで軽く編み込んでいる。
優しい目をした16歳の少女──
アストレイア・ソル・リュミエール。

「ふぅ……! 今日から入学だなんて、実感ないなあ……」

彼女はちょっと自信のないタイプだ。
けれど、成績も運動もそつなくこなす「優等生」に分類される。
本人だけがそれを認めていない。

家には優しい母がいる。
アスメリア・ソル・リュミエール。
落ち着いた物腰の美しい女性だが、驚くほど年齢を感じさせない。
(※理由は後に判明するが、古代戦争の生き残りであり、魔法体質のため老化が緩やか。)

そしてアストレイアのよき理解者であり、学院に住む老人──
ラルフ・ソル・ヴェイン。
学院の“老師”。
小柄で丸い体つきだが、目の奥に深い叡智を宿している。

 (※実は古代戦争をともに戦った勇者パーティの生き残り。)

王立ソルメリア教会魔法学院・初日

学院の校門に着くと、同じ新入生たちが緊張と期待の入り混じった表情で集まっていた。
「アストレイア、こっちだよ!」
気のいい友人・カレンが手を振る。
アストレイアは笑顔で駆け寄り、初日の教室へと入る。

やがて、重厚な扉が静かに開き──
ラルフ老師が入ってきた。

「よぉ、みんな。今日から新しい学びの始まりじゃ。
魔法とは恐れ敬うもの……そして誇りを持つもの。
さあ、第一歩を踏み出そう」

朗らかな声に教室が和む。
だがこの男、ただの温厚な老人ではない。
彼の胸の奥には、誰も想像できないほど深い戦場の記憶が眠っている。

初めての魔法授業

最初の授業は──
基礎火炎魔法《フレイムス》の詠唱練習。
生徒たちは、緊張しながら詠唱を口にする。

「ひっ……火が出ない……!」
「む、むずかしい……!」
班のあちこちから小さな火花が散り、時折爆ぜて悲鳴が上がる。

ラルフ老師は笑いながら見守る。
「焦らんでよい。初日は誰しもこんなもんじゃ」
そんな中、アストレイアは手を前に出したまま、黙ってじっと炎を思い描いていた。

(……あたたかい光。
 母の手みたいに、優しくて……)

その瞬間だった。
ぱっ──。

アストレイアの掌に、小さな炎が灯った。
詠唱なし。
魔法陣もなし。
マナの澱みも一切ない。完全なる無詠唱。
教室がざわめき、空気が震えた。

「……ほう……」

老師だけが、静かに息を呑む。
その目には、ただならぬ緊張が宿っていた。

◆ 6.老師ラルフの気付き

 授業後、ラルフ老師はアストレイアをそっと呼び止めた。

 「アストレイア。……君は、その……どこで魔法の訓練を?」

 「え……? 訓練なんて……したこと、ないです」

 ラルフの瞳に、わずかな震えが走る。

 (まさか……。
  あれほど澄んだマナの流れ……
  完全無詠唱など、五百年前──我ら勇者パーティの
  “あの男”以来ではないか……!)

 ラルフの心がざわめく。
 古代戦争を知る者だけが理解する“前兆”。
 静かに眠っていた歯車が、動き始めようとしている。

 遠い空の積乱雲が、不気味に渦を巻いた。

◆ 7.第一話の終わり

 その日の帰り道。
 アストレイアはいつもの海岸に立ち寄り、夕日に照らされた空を見上げた。

 積乱雲の奥から、かすかに光が漏れる。
 それはまるで──何かが目を覚ます、予兆のように。

 「……どうして、こんなに胸がざわざわするんだろう」

 少女はまだ知らない。

 彼女こそが、五百年の時を超え、
 再び世界を一つに結ぶ“鍵”となることを。

 そして、母も老師も──
 誰より深い“罪”と“秘密”を抱えていることを。

 アストレイア・ソル・リュミエールの物語は、いま始まったばかりだ。

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