世界の創造
その昔、神と魔王がいた。
まだ世界は形を持たず、そこに存在したのは、マナと魔素という二つの粒子が漂う宇宙だけだった。
神の役割は、マナを循環させ、生命を繁栄させること。
魔王の役割は、魔素を浄化し、世界へ還元すること。
二人は決して、相対する存在ではなかった。
秩序と混沌ではなく、循環を担う両輪だった。
やがて二つの力は均衡を保ち、大地が生まれ、空が広がり、生命が芽吹く。
その中心に、神と魔王は一本の苗木を植えた。
それは、世界の核。
マナと魔素を繋ぎ、世界の流れを見守るための存在。
苗木は成長し、根は深く大地へ、枝は高く空へと伸びていった。
人々はそれを、世界樹ユグドラシルと呼んだ。
その頃、世界はまだ平和だった。
滅びも、裁きも、まだ必要ではなかった。
だが――
世界が続く限り、すべては蓄積され、
すべては、記録されていく。
それが、いつか選択を迫ることになるとも知らずに。
これは、世界が生まれた日の物語。
そして、記録の先にある未来を選び直す者たちの物語。
繁栄と平和の時代
ユグドラシルを中心とした世界を、神はアスガルドと名付けた。
そして魔王は、世界の裏側に広がる広大な地下領域をニヴルヘイムと名付けた。
アスガルドでは、マナが自然の中を巡り、森は育ち、空は澄み、生命は争うことなく共に生きていた。
ニヴルヘイムでは、溢れた魔素が静かに浄化され、再び世界へと還元されていく。
表と裏。
光と影。
二つの世界は、ユグドラシルによって結ばれ、完全な循環を保っていた。
平和と繁栄の時代は、およそ百万年にわたって続いた。
変化がもたらされたのは、今からおよそ二千年前。
ヒューマン族に、明確な「知性」が芽生えたのである。
彼らは考え、記録し、問いを持った。
やがて文明を築き、世界を理解しようとした。
それが、祝福だったのか。
それとも――
均衡を崩す始まりだったのか。
まだ、この時点では誰も知らなかった。
三種族の時代
時は流れ、世界には三つの知的種族が現れた。
ヒューマン族、エルフ族、ドワーフ族。
それぞれは、異なる形で世界と向き合った。
エルフ族は、自然と精霊に寄り添い、マナの流れを読み取り、魔法を体系化した。
それは支配ではなく、調和による魔法だった。
ドワーフ族は、大地の奥に眠る知識を掘り起こし、錬金技術と治金技術を発展させた。
魔石から魔力を取り出し、形ある力として扱うことに成功したのは、彼らが最初だった。
ヒューマン族は、特別な力を持たなかった。
だが彼らは、学び、模倣し、組み合わせた。
魔法と魔石加工技術を融合させ、魔力を持たない者でも簡単な魔法を扱える技術を生み出した。
三種族は互いに交流し、知識を分かち合い、それぞれの得意分野で
独自の文明を築いていった。
その時代、世界は再び繁栄していた。
しかし――
繁栄は、常に均衡を試す。
力の差が生まれ、恐れが芽生え、疑念が広がっていく。
やがて争いが起き、大地には、処理しきれないほどの魔素が溢れ出した。
それは、世界が初めて発した悲鳴だった。
文明の発達と、傲慢の芽
文明は、さらに発達した。
ヒューマン族は知識を蓄え、技術を磨き、やがて神にすら抗いうる力を求め始めた。
その欲は、とどまることを知らなかった。
自然は切り拓かれ、森は失われ、魔石は過剰に掘り尽くされた。
制御しきれないほどの膨大なエネルギーが生まれ、各地で暴走を始める。
世界の循環は、明らかに歪み始めていた。
最初に警告を発したのは、エルフ族だった。
自然と精霊の声を聞く彼らは、このままでは世界が壊れるとヒューマン族に訴えた。
続いて、ドワーフ族も警告する。
これ以上の採掘は、大地そのものを蝕む。
魔素の浄化が、もはや追いつかない、と。
しかしヒューマン族は、力を手放さなかった。
彼らは狡猾に立ち回り、技術と契約と力によって、エルフ族とドワーフ族を次第に従えるようになっていく。
それは征服ではなく、支配でもなく、「必要とされる立場」になるという選択だった。
気づいたときには、三種族の均衡は、すでに失われていた。
そして世界は、取り返しのつかない段階へと踏み込んでいく。